新入生への総長のあいさつ

ご挨拶 II

小立野大学総長　伊木浦　悌治

　小立野大学に、はじめてこられた皆さん。ご入学おめでとうございます。え？まだ入学手続きをしていない？・・・いやいや結構です。大丈夫、本学には、そういうもの、申請だの許可だの手続きだのは必要ないのです。ではまず、そういうところから、ご説明いたしましょう。

　小立野大学は、ネット上に開かれた大学です。ここにはゼミナール、すなわち集うという言葉の字義通り、イバラードの学生諸君が、『真・善・美』を究めるべく、集まっております。というより、本来の意味からすると、集まってしまったらゼミナール、と、こうなるわけです。

　究めるとか、学ぶ、というと大層に聞こえますが、学ぶ、という言葉は、これはまねぶ、つまり『まねる』、というところから来ているのですな。いわば心のときめきです。「梁塵秘抄」のよく知られた歌ですが、 『遊びをせんとや生まれけむ　戯れせんとや生まれけん遊ぶ子どもの声聞けば　わが身さへこそ揺るがるれ』 というのが、ありますな。・・・・好きなんです、私は、この歌が。無心に遊んでいる子どもたちの声を聞くと、自分の体までが、自然と動いてしまう（－－まぁ、もっと深読みした解釈も別にあるようですが）、ほんと、子どもたちを見てると、遊ぶために生まれたのか、戯れるために生まれたのか、と思いますな。・・・・すみませんちょっと眼鏡を拭きます。

　つまりですね、無心に遊ぶ、戯れる、体が動く、真似をする、そういうときめきと共感が、私は、学ぶって事じゃないかと思うんです。イバラードで、遊んで、たわぶれて欲しいと思ってます。（声が大きい）遊びをせんとや生まれけん・・・・（しばし瞑目）

　子どもはごっこ遊びが好きですね。科学の真理なんて言うのも、実はそうなんです。科学というのは、『仮説』です。現象を説明するためにたてる、仮定なんです。『仮にこう考えてみよう』と、こう言うわけですね。船長ごっこや、お魚ごっこをするようなもんです。私はイカごっこが好きですが。え？皆さん、そんなのはしませんでしたか。みんなで鮭とかになって、砂利を掘って、卵を産む格好をするんです。・・・・なんか、受けてますね。女子生徒諸君に。私上手いんですよ。この遊びが。ま、そういう風に、シミュレートしてみる。そうして、それがうまく、合理的に事実と合致すれば、その時点での真理となる、合わないところがでてくれば、またより良い仮説を探す、とこういうわけです。

　私は、イバラードも仮説だと思っております。世界をどう見るかということですね。たとえば、ソルマとは何なのか、これに音と言葉から、せまるのが私の専門なんですが、これが、ゆくところまで行き着けば、学を極めた、つまり、究めた、ということですな。

　二番目の『善』については、 「善人なおもて往生を遂ぐ　いわんや悪人をや（親鸞）」これが好きです。善人ですら、往生するんだから、悪人などは無論。という、ちょっと、とまどいますね。でもそうなんです。善が良い、善でなくちゃいかん、なんてのは、ほんとの善じゃないんですよ。・・・・ゴホン。（水を飲む）

　最後の『美』ですが、これについては、私の心の師、ソクラテス先生が、このように言っておられます。『人は有るものは求めない、無いものを求める。では、美を求めるのが、美の神だとすると、美の神には美が無いことになる。美しく無くって、美を求めてるなら、それは、ちょうど、私のようなもんじゃありませんか。（笑）』ということになって、美しくない（失礼！）ソクラテス先生が、美の神様になってしまうんですね。面白いでしょう。これは弟子のプラトンが、そのように記述しております。よくぞ書いてくれたものですな。

　このソクラテス先生の議論の進め方、これが、科学の『仮説を立てて、検証する』というやり方の、基礎になっているんです。いや、面白いですよ、私などは、学生時代にはずいぶん『真似び』ましたよ。友だちと、ワクワクしながら、『わが身さえこそ　揺るがるれ』というわけですな、いろんな事について、先達を真似て楽しく議論いたしました。議論というのは、よくみんな間違ってますが、勝ち負けじゃありませんよ。解らないことを、仮説を立ててみながら、お互いにいろんな事例を当てはめて、検証するのが、議論なんです。そのことについては、ソクラテス先生が、2000年以上前に、ちゃんとお手本を示してくださってます。『シミュレーション』、ま、『ごっこ』ですな、いいかえれば、『思考実験』です。それがイメージできれば、つまりソルマが見えたら、それは実現へ歩み始めたと言うことなのです。

　まあせっかくこうして『究め』ても、小立野大学では、別に単位がもらえるわけでも、資格が取れるわけでもありません。私がもといた大学では、『代返』などという嘆かわしい慣行がありましたが、少なくとも、そんなことをする必要はないわけです。カンニングも、根絶できますね。なかなか良い制度だと思います。ね？。

　そういうわけで、ぜひ皆さん、この小立野大学で、楽しく学びの道を極めてください。まあひとつ付け加えるなら、このネット上の小立野大学は、イバラードにある、コダツノ大学に端を発しています。学校の様子については、『コダツノⅠ』『工房の庭』などの、画像をご参照下さい。さらにもっと、この学び舎の、全体も細部も分かる画像を用意するよう、イノウエ先生にも、要望しておきます。

　では、以上が新入生諸君への言葉です。入学、おめでとうございます。

2000年　入学式にて

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ご挨拶 II

小立野大学総長 伊木浦 悌治

小立野大学総長　伊木浦　悌治