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井上直久さんの作品との最初の出会いは漫画でした。 「イバラード物語」(旧版)を最初に書店で見て、「漫画家の絵ではない」という印象。 そして、「もしこの作家が漫画で生活していこうと思っているなら大変だな....」と思いまし た。それはぼく自身が一時期「ガロ」で漫画を描き、自分自身の本当に描きたい もので収入を得ることの、大変さが良くわかるからです。 本を買って帰り、その作品をじっくり読んでみてその純度の高さに唸りました。 それは絵画による漫画であり、コマの積み重ねによって多層の時間と空間を形成 していて、一話の作品が普通の漫画の一冊分のボリュームを感じさせました。 この本が出版された当時、これほど空間を意識した漫画作品は他に無かったと思 います。 ある絵本編集者に「イバラード物語」を見せると、「貸して」と言われ、やな予 感がしましたが予感は的中して、その本は返って来ませんでした。しばらく返却 されるのを待っていましたが、あきらめてもう一冊同じ本を買いました。 それから少しして、井上さんから一通のハガキをいただきました。どんな内容か 忘れましたが...、展覧会の案内だったかも知れません。その時ぼくは「イバラ ード物語」を読んで感動したと返事を書きました。 それから忘れた頃に、「学校の教師をやめて、画家として仕事をしていく」とい う手紙をいただきました。「タニマチ」などの絵はがきも入ってたと思います。 「タニマチ」は今でもぼくは井上さんの最高の傑作と思っています。もちろん現 在さらにすぐれた作品を生み出していますが、素朴さと幻想性、雄大さを合わせ て考えてみると、その時見た衝撃は今でも変わることがありません。 ぼくは「画集が出せるかも知れない」と思って、井上さんが自費出版した画集や 絵はがきなどを、架空社の前野さんに見せました。これがたぶん1993年頃。そし て1994年1月に架空社から出版されたのが「イバラード博物誌」です。 画集の出版記念に、東京青山のピンポイントギャラリーで展覧会があり、その時 初めて井上さんにお会いしました。繊細ですぐにこわれてしまいそうな人を想像 していたのですが、ご本人は気さくで人当たりの良い好人物でした。その頃ぼく の前歯は切符切りのように欠けていましたが、たしか井上さんの前歯も....だっ たような...?会場には想像以上の迫力の美しく幻想的な「タニマチ」も展示さ れていました。その展覧会に宮崎駿さんが見に来て、あの「耳をすませば」につ ながったのは有名な話です。 井上さんは自分の作品世界が、他人の作品に使用されるのをまったく気にせず、 自分の世界が広がると言ってかえって喜んでくれます。そんな井上さんの好意に 甘えて、ぼくは今年の春に雑誌「MOE」で「夢のかけら」という作品を描き「ロ ム化石」を使わせていただきました。 井上さんの作品を見て感じるのは時間と空間を持った絵画ということです。ロシ アのアニメーション作家にA・ペトロフという油彩画でアニメーションを制作し ている作家がいて、彼は自分の作品を「動く絵画」と呼んでいますが、井上さん の作品は時間と同時に空間を持っています。この空間へのこだわりは「3Dイバ ラード」や陶器の建築、ジーマの模型などに良くあらわれています。その作品世 界はデジタルの世界にスムーズに溶け込み、これからさらに魅力ある、本当の時 間と空間を持った作品に発展するのはそう遠くないと思います。 最後に自慢です。 「ランタン・フライ」「エアシップの木」「ナビゲーター」 ぼくが所蔵している井上直久作品です。 お忙しい中、こころよく引き受けていただき、イバラードのためにこんなにも素敵な文章をお送り頂きまして、 ほんとにありがとうございまいした。 イバラードの住人のみなさんに代わって御礼申し上げます。 井上直久さんとの出会いのことや井上絵画に対する独特の解釈など たいへん興味深く拝見し感銘しました。 また、この冷静で控えめな文面に、お人柄を感じました。 お二人を見ていると、幼少のころの遊び友達のような、そんな無垢な気がしてなりません。 これからもすばらしい作品で私たちに夢と笑いと希望を与えてください。 (フクオカ) おすすめサイト たむら しげるさんのホームページ−たむらしげる スタジオ通信 前回の講師−宝永たかこさん |